外房海岸(そとぼうかいがん)の断崖(だんがい)にハヤブサがとまっていました。近づいても逃げません。こちらを睥睨(へいげい)しています。さすがに、最速の猛禽(もうきん)ハヤブサの貫録(かんろく)です。
全然、気にしていないのかと思っていたら、突然、身構えて、翼を広げると同時に、頑丈な足で土を蹴り上げ飛び立ちました。
両翼を真一文字に広げ、滑空して近くの断崖に移動しました。あっという間のできごとです。その後、また、その場所で動かなくなりました。
地球上で最も高速な動物は、ハヤブサといわれています。獲物を狙って急降下する時のハヤブサのスピードは時速200kmを超す新幹線なみの速さです。
体重1kg弱のハヤブサが両翼を折りたたみ、尾羽を閉じた姿勢で1500mの高空から急降下した時には時速385kmに達すると計算されています。
ハヤブサの狩りは、高空から急降下して、飛んでいる鳥を足でけり落とします。その衝撃(しょうげき)は、強烈で、小さな鳥は即死、大きな鳥でも、失神するそうです。
その即死または失神した獲物(えもの)が、真っ逆さまに落ちるのをわしづかみにして捕らえる猛禽、それが、ハヤブサなのです。
また、ハヤブサは、環境省のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類(絶滅の危険が増大している種)と判定されている貴重な猛禽です。
このハヤブサは、房総半島の断崖を棲み家(すみか)にしているハヤブサなのでしょうか?
北風も吹かない暖かい冬晴れの断崖で、のんびりと日向(ひなた)ぼっこをしていたようです。朝のうちに狩りをしてお腹いっぱいだったのかもしれません。
優しい顔つきで、くりくりした目をした可愛いハヤブサでした。
「まなこをあげて落つる日の
きらめくかたを眺(なが)むるに
羽袖(はそで)うちふる鶻隼(はやぶさ)は
彩(あや)なす雲を舞ひ出でゝ
翅(つばさ)の塵(ちり)を払ひつゝ
物にかゝはる風情(ふぜい)なし」 (島崎藤村 「新潮」より)